甘く熱いキスで
「昨夜……八つ当たりのような態度を取りました。せっかくユリア様に誘っていただいたオペラだったのに、申し訳ありませんでした。そのことを謝らなくてはと考えていて……集中力が欠けていたようです」
「そんなの……気にしていないわ」

これも半分本当で、半分嘘だ。ユリアはライナーの態度に気分を害したり、腹を立てたりはしていない。ただ、ライナーの育った環境や家庭の事情はとても気になる。

しかし、ユリアにはまだライナーとの距離感がわからなくて、どこまで聞いていいのか迷っている。

毎日一緒に昼食をとる。デートもしたし、キスもする関係だ。でも、ライナーが本当にユリアとの間の壁を超えてくれたときは、自らすべてを話してくれるのではないかとも期待している。

「ユリア様も、お気持ちがすっきりされないようですね?」

沈黙を破ったクラドールは、小さなキッチンスペースへと向かい、コーヒーを入れて2人のもとへと戻ってくる。それから2つのマグカップをテーブルに置いた後、「ごゆっくり」という言葉を残して治療室を出て行ってしまった。

ユリアはどうすればいいのかわからなくて、ソファに座ってライナーを見上げた。ライナーは少し困った様子でクラドールが出て行った扉の方を見ている。

ユリアは自分の隣に置いていたバスケットを膝に乗せ、中から今日の昼食を取りだしてテーブルに並べた。

「今日は、ここで食べましょ」

今、無難な話題といえば昼食のことしかないだろう。そう思って声を掛けると、ライナーもソファに腰を下ろしてくれた。向かい側ではなく、いつものように隣に座ってくれたことがユリアの心を少しだけ軽くする。

グラタンとスープの入ったお皿を呪文で温める間、ライナーはユリアの手元に視線を落として何か考え込むように黙っている。
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