甘く熱いキスで
ヴィエント王国は大国で軍事力も安定している。彼らが操る風属性の呪文は、攻守ともにバランスの良い種類だ。流動性といったらいいのだろうか、波長のコントロールがしやすく、クラドールも育つ。

その大国がフラメ王国の軍事力を借りたいと頼んでくるのは珍しいことで、エルマーも首を傾げていたけれど、特別断る理由もない。攻撃性で言えば、炎属性が一番と言っても過言ではないのでヴィエント王国がフラメ王国を頼るのも頷ける。

精鋭部隊を送ることや詳しい状況をユリアに話してくれなかったことから考えると、それなりに重要な案件のようだけれど。

「危険、なの?」
「平和なこの時代でも、軍人は命の危険と隣り合わせです。それが本来の職務であり、皆が命を掛けて国のために戦うことに誇りを持っています」
「それは、そうだけど……」

今、離れたらせっかく僅かに近づいたライナーとの距離が広がってしまう気がしてユリアは不安になった。

「迷って……いるのです」
「……え?」

掠れた声を漏らしたライナーを見つめると、ライナーはユリアの頬から手を離し、その手の甲で自分の額に触れた。

「私が軍人になった理由を、きちんと心に刻み直さなければ……貴女と向き合えない。ですから、これはいい機会だと思います」

ライナーはユリアから離れたがっている。

強引に彼に近づいたという自覚があるユリアは、ライナーの戸惑う様子に何も言えず、足下に視線を落とした。

舞い上がっていたのはユリアだけなのだと言われた気がして悲しい。ライナーが軍人という身分や自分の出生にこだわるのは、ユリアが王女だからだろう。王族の地位とは、そんなにも特別なものなのか。
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