甘く熱いキスで
「履いてみて?サイズはこの前のクラドールに聞いたから大丈夫だと思うけれど、一番履き心地が良くてデザインも気に入ったものにしましょう」

これだけ――カーテンの奥にずらりと並んだ軍靴は数十足、もしかしたら百足以上あるかもしれない――あれば、ライナーの気に入るものがあるだろう。

もちろん、実践に使えるものであるのでデザインと言っても大きな違いはない。丈の長短と言ってもわずかな違いのようだし、色も軍服と合わせて鶯色を含んだもの、真っ黒のもの、黒に近い茶色くらい。

あとはライナーの足に合うか合わないか、実際に使うライナーの好みやこだわりだろう。

「ユリア様、お気持ちは嬉しいですが、私にはこんな高い靴は買えません」
「私が買うのよ。値段は気にしないで」
「それでは尚更買えません」

ライナーが首を振り、ユリアはムッと唇を尖らせてライナーの履いている革靴を脱がせた。

「いいから!早くしないと食事の予約の時間になってしまうわ!」
「ユリア様」
「ライナー。貴方が明日から赴く任務は、とても重要なものでしょう?合わない靴であの日の演習のようなことになったら、リーダーにお叱りを受ける程度じゃ済まないのよ」

ユリアは、もう一足手の届く場所に並んでいた靴をライナーの膝に置いた。

「貴方を守るのは、貴方自身だわ。しっかりとした靴を履いて、実力をすべて出し切れる状態で向かって欲しいの。私にできるのは……これくらいしかないから」

一緒に行きたいなんてわがままは言わない。一国の王女が、想い人が行くというだけでついていけるような任務ではないし、たとえユリアがついていけるだけの実力と身分を持っていたとしても……こんな邪な気持ちを持っていては、迷惑になることは明らかだ。

ユリアは視線をライナーの足下に落として俯いた。

無事に帰ってこれるように準備し、願うことくらいは許して欲しい。それとも、これもライナーにとっては迷惑な行為になるのだろうか。
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