甘く熱いキスで
「……ユリア様」

ふわり、とユリアの頭を撫でてくれる大きな手に、顔を上げたユリアの瞳に映ったのは、ライナーの真剣な表情だった。そこに映る感情は、ユリアには読めない。

揺れる茶色の瞳の奥にある炎の温度がわからない。冷たいようで、しかし、出会った頃のような鋭さは薄れて……

“熱い”と言うには遠く、いろいろな色が混ざり合うような……そんな不思議なライナーの一面が、ユリアの心に波風を立てる。

「試着させていただいても……?」
「うん、もちろん」

だが、ライナーの口から紡がれたユリアの好意を受け取ってくれる言葉にユリアはホッと胸を撫で下ろし、微笑んだ。

ライナーも頷き、並べられた靴を自分で見ていくつか選んだものを試着してくれた。それぞれの靴を履いて歩いたり、少し跳ねてみたりするライナーの姿を見ながら、ユリアは胸に手を当てた。

不安――ユリアの今の気持ちは、きっとそれだ。ライナーが無事に戻ってくるだろうということには、確信がある。彼が無茶をするとも思えないし、他国の部隊が前線に立つこともおそらくないだろう。

ユリアは、ライナーが帰ってくる頃に出される結論が怖いのだ。ライナーがユリアを選んでくれるかどうか……ユリアとの関係を、進めたいと思ってくれるかどうか。

ライナーの瞳の奥に隠された感情を知りたいと思うのと同時に、怖くなる。そこにある“何か”は、ユリアが触れていいものなのか……

違う。

ユリアは触れたいのだ。ライナーの人生に、もっと深く関わりたいと思っている。こんな危うい関係ではなくて、お互いのすべてを受け入れるような愛が欲しい。ライナーに近づきたい。知りたい。その好奇心にも似た切望が、一方通行だから苦しくて、怖い。

もうこの気持ちは、ハッキリとした形で燃えている。

ユリアは、ライナーが好きだ――…
< 69 / 175 >

この作品をシェア

pagetop