甘く熱いキスで
一気に静まり返った更衣室、視線が自分に向いたらしいことを感じてアルフォンスは汚れた軍服をカバンに詰め込んだ。

腫れ物扱いには慣れたが、だからといって気持ちいいものでもない。

アルフォンスにもブレネン家の血が流れているので仕方のないことではあるが、新人として同じように訓練に参加し、エルマーや他の教官たちに贔屓されているわけでもないのにこの扱いには不満がある。

中には仲良く接してくれる者もいたが、配属が別れてしまってこの様だ。というか、エルマーはわざとアルフォンスを理解者から引き離した気がする……というのは、アルフォンスの個人的な見解だけれど。

何にしても……ライナーよりはいい待遇なのかもしれないと思う。ライナーは、文字通り皆から邪魔者扱いされている。軍の中でだけではない。本来、フラメ王国民は炎の下全員が平等と考えるシュトルツ信仰に熱心なタオブンからも嫌われているのだ。

そんな彼の存在は、ユリアが騒ぎ出す前から知っていた。尤も、“なぜ”かはアルフォンスは知らないし、興味もなかった。今までは……しかし、今は、知りたいと思う。いや、知らなくてはいけないのだと強く本能で感じる。

アルフォンスはため息をこらえて「お疲れ」と一言残し、更衣室を出る。薄いドア越しに、彼らがまた騒ぎだしたのを背中で聞きながら、城への道を歩き出した。
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