甘く熱いキスで
朝食を終えたユリアが廊下を歩いていると、右手の人差し指が熱くなり、ユリアはすぐに炎を灯した。

「ライナー!」
『ユリア様、おはようございます。今……お話ししても?』
「もちろん!今日の任務は?」

朝から連絡してきてくれた彼の声を聞くと自然と頬が緩む。

『今日から夜の担当で、いつもの時間に連絡が出来ないと思いまして』
「そうなのね。嬉しい」

ユリアがそう言うと、炎越しにライナーがクスッと笑った。

ライナーが遠征の任務に就いてからもう一週間、予定の半分は過ぎた。その間、約束通り毎日欠かさずユリアに連絡をしてくれるライナーとは、他愛のない会話をして「おやすみ」をいうのが習慣になっていた。それが、今日からは「おはよう」になるのだと思いながら、ユリアはライナーが教えてくれるヴィエント王国の天気やその日の任務についてなどを聞いていた。

「予定通り、帰って来られそう?」
『心配性ですね。大丈夫ですよ。帰還日程も変更はありません』

毎日のように同じことを聞いているが、それでも丁寧に答えてくれるライナーの口調は穏やかで、それを聞く度にユリアは安心する。

「だって、早く、会いたくて……」

なぜだろう。

面と向かっては、あんなにわがままを並べられたのに、今こうして炎越しに話すとなんだか緊張して言葉に詰まってしまう。ライナーの表情が見えないからかもしれない。音だけで彼の反応を探るには、ユリアはまだ未熟で幼い。恋の駆け引きの仕方なんて知らないから。

『……私もですよ』

フッと笑うような音と共に呟かれた言葉に、心臓が高鳴る。ユリアは胸に手を当てて「うん」と頷いた。

それから一言、二言ライナーの体調を気遣う言葉を交えて会話を終え、ユリアは階段に足を掛けて……やめる。ライナーがヴィエント王国へ行ってしまって、ユリアは時間を持て余している。ライナーと出会う前には何をしていただろう。そんなことすら思い出せない。

ユリアはそんな自分にため息を零して、中庭へと行くことにした。今日は天気も良いし、日向ぼっこでもしてのんびり過ごすのがいい。
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