甘く熱いキスで
「ユリア」

ユリアが廊下を引き返そうと振り返ると、ちょうど城のエントランスからアルフォンスが入ってきた。着崩した服と少し汗の滲む肌、それに持っている荷物からして訓練帰りだろう。

ユリアは顔を顰めて立ち止まった。

ライナーが遠征任務に就いてから、アルフォンスはユリアに構おうと必死なのだ。日に何度もユリアが好きなのはライナーだと伝えるのにもうんざりしている。

「アル、何度も言うけれど――」
「ユリア。お前……ライナーのこと、どれだけ調べた?」
「え……?」

普段はどれだけ自分の方がユリアにふさわしいかという演説のようなアタックばかりだったのに、とても真剣な表情で、深刻な声色で、そう言われ、ユリアは思わず唾を飲み込んで喉を鳴らした。

「4年前……15歳のときにカペル家に養子として引き取られてからのことは、知っているわ」

カペル家に入ってからは当主のベンノについて軍の訓練見学にもよく来ていたようだ。社交界に出てからの彼の素行も特に問題ない。

「それだけか?」
「何が言いたいのよ」

アルフォンスが眉根を寄せて明らかに不信感を持った様子に、ユリアはイラついて答える。

「権力を使って個人情報を掘り起こすのは嫌なの。調べられた方だっていい気分ではないでしょうし、特にライナーの事情は複雑みたいだから聞かれたくないことだって――」
「そんな甘いことを言ってられる身かよ!?お前はフラメ王国の王女だぞ!もっと危機感を持てよ!あんな、国民全員から疎まれているような男、胡散臭いとしか思えないだろ」

その言葉を聞いて、ユリアは大股でアルフォンスに近づいて思いきり彼の頬を引っ叩いた。
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