甘く熱いキスで
「――ってぇ」

アルフォンスは少し赤くなった頬を手のひらで押さえ、しかし、ユリアを鋭い視線で見据える。

「胡散臭い?私にしてみたら、人のことを身分や生まれなんてものだけで判断するプライドだけで生きている人間の方が胡散臭いわよ!両親が対立する家の出身だからって……愛し合った2人のもとに生まれた命がそんなに罪深いものなの?」
「それ――」
「ユリア姉様、アル」

アルフォンスが目を見開いて何か言いかけたとき、2人の名前を呼ぶ声がそれを遮った。階段を見上げると、ユリアのすぐ下の弟であるカイが呆れたような表情で階段を降りてくる。

赤みの強い短い髪に、焦げ茶色の瞳は強い光が宿り、纏う雰囲気はヴォルフにそっくりな第一王子だ。

「こんなところで言い争って、みっともないでしょう?」

外見に反しとても穏やかな口調で話すカイは、一言で言えばユリアとは正反対――ヴォルフに似た外見にフローラに似た性格――で、いつもユリアとアルフォンスの仲介役だ。ついでに言うと、その他の兄弟をうまくまとめられるのもこのよく出来た弟である。

「だって……」
「姉様、その口を尖らせる癖もやめないとね。アル、早くシャワー浴びてご飯食べないと、午前の会議に間に合わなくなるよ」

カイには口で敵わない。カイもそれをわかっていて、ユリアに微笑む。

「もう……行くわ」

ユリアはフイッと顔を逸らして中庭へと向かうべく歩き出す。

「っ、ユリア!待――」
「アル。ほら、行くよ」

後ろでカイに捕まったアルフォンスが文句を言っているが、ユリアはイライラする気持ちを足に込めて早歩きで彼らから離れた。

アルフォンスまでライナーのことを疎んでいるという事実が、ショックだった。アルフォンスにとっては恋敵だから、ライナーのことを嫌うのは仕方ないかもしれないと思っていたけれど、それだけではない“理由”が悔しい。
ライナーは、何も悪くないのに――
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