甘く熱いキスで
ライナーが帰ってきている。

それをユリアが知ったのは、夕食の準備をしに来た侍女の世間話を聞いていたときだった。

てっきり帰還は明日の朝だと思っていたユリアが侍女に問いつめると、どうもヴィエント王国で何か功績を立てたらしい――つまり、任務を完璧にこなしたということだ。

それで早まった帰りの日程と、更にその任務に貢献したのがライナーらしいという情報を聞いた瞬間、ユリアは部屋を飛び出していた。

「もう、どこにいるの!」

すでに空っぽだった謁見の間から走ってエルマーの執務室に来たユリアは鍵のかかった扉を殴りつけて八つ当たりし、それから呪文競技場へと走る。

「真っ先に会いにきて」と言ったのはユリアのわがままだったし、ライナーが頷いてくれたのも社交辞令のようなものなのかもしれない。けれど、それでもライナーがその約束を守ってくれないなんてことはないと思っていたし、今も……ライナーの姿が見当たらないことに憤りよりも憂いが大きくて必死に足を動かす。

ライナーは、ユリアとの関係を進めないと決めてしまったのかもしれないと……そんな不安がユリアを駆り立てる。

呪文競技場に入ったものの、いつも精鋭部隊が訓練する広場は静まり返っていて誰もいない。

「ライナー」

名前を呼んでみても、ユリアの声は空しく静寂に消えて行く。ユリアは踵を返して通路を歩き出した。見学席への出入り口や更衣室、小さな執務室兼待機室もこの通路沿いに設けられている。

もちろん見学席には誰もいないし、ライナーがいるとすれば更衣室か待機室だろう。もしくは、すでに家へ帰ってしまったか……
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