甘く熱いキスで
目を通していた資料を机に置き、カイは立ち上がった。何枚かの用紙を引き出しにしまい、鍵をかける。そして部屋を出て、廊下を歩きながら人差し指に火を灯した。

『カイ?どうしたのー?』

すぐに聞こえてきたエルマーの声は少し疲れて眠そうだ。

「エルマー伯父さん、聞きたいことがあるのだけど、今からそちらに行ってもいいですか?」
『んー?珍しいね。いいよー。執務室にいるから』
「はい」

返事をしてから炎を吹き消し、カイは少し歩く速度を上げた。なぜだろう、廊下の窓から見える満月に急かされる自分がいる。

自らライナーの身辺調査を行った結果、ライナーの両親は確かにタオブンとファルケンそれぞれの良家の出だった。母親が当時タオブンの筆頭と言われていたアイブリンガー家のユッテという1人娘で、城下町の中央教会の隣にある大きな屋敷に住んでいる。

そして父親はビーガー家の長男マルクス――20年ほど前までは陸軍のトップとしてファルケン内では確固たる地位を築いていた。つまり、ライナーが議会の2派の板挟みで疎まれているというのは事実ということになる。

アイブリンガー家は前当主のヨーゼフ――ユッテの父親でライナーの祖父にあたる――が亡くなってから急速に力を落としているが、ビーガー家の没落理由は曖昧だ。

記録には、謀反計画が漏れて……ということになっているが、カイの推測はその謀反がヴォルフの婚姻に原因があるのではないかということだった。

記録というのは、あてにならないことがある。書き方や言葉の選び方によっては読み手による解釈の差も出てしまうだろうし、何より書き手が個人的見解を反映させることができてしまうからだ。当時の出来事を正確に知っているのは、それを経験した人だけ――
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