甘く熱いキスで
「でかいあくび。ユリア、一応王女なんだから、もう少し上品に振る舞えよ」

ククッと笑う声に、ムッとして目の前の城のエントランスに目を向けると、真っ赤な髪の毛をくるくると指先でいじりながらユリアを見ている男が扉に背を預けて立っていた。

アルフォンス――ヴォルフの妹であるハンナの息子、ユリアより1つ年下の従兄弟だ。

「うるさい。アルも早く訓練へ行ったら?」
「“も”って、ユリア、こんな朝っぱらからキス魔の王女やってんのかよ。それも訓練場?こっちから帰ってきたってことは、新人研修だろ。あんな下っ端兵士の中にユリア様の“運命の人”がいるとは思えねぇ」

アルフォンスの指摘に、ユリアは顎に手を当てた。今しがたユリアが訪れてきたのは、フラメ王国軍の総合訓練場だ。海軍も陸軍も、共同で基礎訓練と演習を行っている。指導係として中堅クラスの兵士も参加しているが、どちらかといえば軍に入って3年以内の若い兵士が多い。

昨日の男はそんなに年上でもなかったから、足を運んでみたが……仮面も被っていたし、若く見えるタイプということもあり得る。彼の呪文はかなり熟練されたものだったし、少し早合点だったかもしれない。

「よく考えたら、そうね。それに、キス魔はもうやめるわ」
「やめる?」

アルフォンスが眉を顰めてユリアを凝視する。ユリアは「うん」と言ってアルフォンスの目の前を通り過ぎ、廊下を進んだ。

「ちょ、おい!待てよ!やめるって……」

慌ててユリアの後を追いかけてくるアルフォンスを横目で見る。彼もバカではないし、ユリアがキス魔をやめるという意味はすぐに理解したはずだ。
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