甘く熱いキスで
ユリアは嗚咽を漏らしながら走り、急いで城へ戻った。それでも止まることなく走り続け、エルマーの執務室へと急ぐ。

「ライナーの謹慎を今すぐ解いて!」

ノックもせずに入り込んだそこには、ヴォルフがいてユリアを見るとため息をついた。ユリアは息を切らしながら、泣いてぐちゃぐちゃになっているだろう顔をドレスの袖で拭う。

「ユリア。とにかく座れ」

ヴォルフはユリアの言いたいことは予想していたらしく、自分もソファに座るとユリアを促した。だが、ユリアはそれどころではない。

「呪文競技場を壊したのは私よ!それくらい、お父様やエルマー伯父さんならわかるはずでしょう?」
「ユリア、落ち着いてよ」

ユリアの勢いに苦笑いをして宥めようとするエルマーの軽い口調に更に腹が立って、ユリアは地団駄を踏んだ。

「落ち着いてなんていられないわ!ライナーは何も悪いことをしていないもの!昨日だって、精鋭部隊の人たちに殴られたり蹴られたり、靴を燃やされたりしていたの。それで、私が怒って――」
「ユリア」

普段よりワントーン低い声で名を呼ばれ、ユリアはビクッと肩を跳ねさせる。ヴォルフはユリアを真っ直ぐに見据え、再び口を開く。

「8人の証言と、お前1人の言い分、どちらを取らなければいけないかなど説明するまでもないだろ」
「でもっ!」
「ユリア。お前はライナーがどういう立場にあるのかを知っていたはずだ。お前の浅はかな行動がライナーにどういう影響をもたらすのか考えたことはなかったのか?」

そう言われて、ユリアは唇をかみ締める。

ヴォルフの言うことは間違っていない。

ライナーの立場――彼が周りから疎まれていることを知っていた。嫌がらせを受けていたことを知ったのは昨夜の一件だけれど、それを見て感情に任せて行動してしまった自分はまたライナーを貶めようとする人間にネタを与えてしまっただけだ。
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