夢リング
第一Q

出逢い。

____春、

 桜が満開のこの季節、桜ヶ丘高校に一人の少女が入学した。
「ここが…」
 彼女の名前は花山悠(カヤマユウ)。何の取り柄も無いが、ひとつだけ得意な事がある。

 それは_______


「バスケ部…あるのかな?」

 そう呟いて満開の桜の中に消えていった。



 さて、うって変わって現在は入学式中。ここは新設校なので在校生なんてものは居なく、保護者とほぼ対面だった。

『新入生代表、佐野雪(サノユキ)』

「はい。」

新入生代表の挨拶をするのは入試トップの人物。悠は差ほど頭は良くないので羨ましい目で淡々と話す彼女を見ていた。



 入学式も終わり、つかの間の休憩。悠は一人ポツンと教室の席に座っていた。周りを見ると同じ中学の出身なのかグループが既に出来ていて話しかけられず仕舞いだ。

「…くだらない」

 ふと、隣で声が聞こえた。声の主は不服そうに女子のグループを見ていた。

「あんたもそう思うでしょ?」

「え、あ、そうですね…?」

 突然話しかけられ少々ビビってしまったがちゃんと応答出来たので良しとしよう。

「女の友情なんてぐちゃぐちゃのドロドロなのに…」

 この人は女関係に酷い事があったのかという目で真横の少女を見つめた。

「あ、あたしの名前は神楽絵里(カグラエリ)。よろしく」

「えと、私は花山悠です。」

 ふーん。と言って絵里はまた前を向き、雑誌を読み始めた。悠も視線を下ろすと、絵里が読んでいたのは今日発売の月刊バスケットだった。

「…それ、今日発売の月バス」

「ん?あぁ途中で買ったんだ。もしかしてバスケ、興味ある?」

「毎月…買ってる。帰りに買おうと思ってたの」

 絵里は目を見開き悠を凝視した。まさかこんなに大人しい悠が月バスを毎月買っているなんて思ってもみなかったんだろう。

「も、もしかして…バスケ経験者…?」

「うん。ミニバスからやってるよ」

 ・ ・ ・。

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?え、じゃあポジションは?」

「え、と…確かPG(ポイントガード)とSF(スモールフォワード)だったよ。基本はPGだけど。」

「出身中学は!?」

「すぐそこの出雲中学校。バスケは男女共に強豪って言われてるけど全中だってそんなにいい結果出してないもん」

「超強豪じゃん!!去年は男子共に全中3連覇を達成して、取材とか凄かったでしょ!!?しかも、当時のスタメンは全員バスケの強豪校へ進学したって聞いてるけど…」

 ペラペラ喋り出す絵里を見て悠は若干引いてしまった。あまりにも色々知っていたから。

「絵里…ちゃん?少し落ち着こうか。」


 ガラッ
 しばらくして教室のドアが開き、先生が入ってきた。

「初めまして!この1年間このクラスを受け持つ近藤龍也だ!!担当教科は体育だ!!よろしくな!」

 なんと熱い担任だ。きっとクラス全員が思っただろう。そんな事も露知らず熱く語る近藤先生が教卓に立っていた。



 熱いHRも終わったところで悠と絵里はバスケ部を探し出した。
「…見つからない」
「もしかして、無い…のかな?バスケ部」
 だとしたらどうしたものか。折角高校でもバスケが出来ると喜んでいたのにこうなってしまえば花の高校3年間が無駄で終わってしまう。


「邪魔なんだけど。廊下のど真ん中でつっ立ってないでくんない?他の人、特にあたしに迷惑なんだけど」



 そこには先程の入学式で新入生代表挨拶をしていた佐野雪だった。雪は鬼の様な形相でこちらを睨んでいたので悠と絵里はビクッと体を震わせて顔が青ざめた。

「佐野…さん?」

「どいて。今、イライラしてるんだから」

 もう、見た目で分かる。目は鋭く、声が荒ぶっているのだから…。

「全く…この学校に女バスが無いなんてありえない。」

 ブツブツを苛ついている内容を言っている雪を見て悠は思わず、



「………なら、創ろう。バスケ部を。」


「「え、?」」

 見事に息のあった絵里と雪を無視し、悠は話を続ける。

「無いなら創ればいい。あと、2人居れば試合に出れる。ベンチに1人2人欲しいから…最低でもあと3人必要だ!」
 悠が真剣に話すのを見て絵里と雪も満更でない表情に変わった。

「…いいよ。やろうか!」

 先程の荒ぶった声とは裏腹に明るい声が雪から聞こえた。

 絵里もコクリと頷く。


_____今ここにバスケ部が創部されたのであった。



「でも、練習メニューとか監督はどうすんの?」

「「………。」」

 絵里の鋭い質問に悠と雪の顔が強ばる。恐らく何も考えて無かったのだろう。

 しかも、今日は入学式で午前中だけなので生徒はもう帰らなくてはならない。

「私がやる。監督は無理だけど、練習メニューとかなら。中学の時作ってたし、どうかな…?」

 声は震え、おずおずと話す悠を見て絵里と雪は大丈夫か?と考えたが、悠がやりたいのなら…という事で賛成した。

「次は部員集めだな。まずは部員募集のポスターを書いて、監督になってくれそうな人を探す。」

 淡々と話を進める雪をよそに悠と絵里は早速部員募集のポスターを書き出した。ポスターには『バスケ部員募集!!バスケ初心者でも経験者でもOK!入部希望者は1ーC花山悠、神楽絵里1ーD佐野雪まで!!』という何とも古典的な内容のポスターが出来た。

「いや、あんた達何書いてんの!?人の話を聞け!!」

「「は~い…」」

 全く反省の色を見せていない悠と絵里は再びポスターを書いていた。

「とりあえず、明日からは部員集めと監督探しだからな。帰るぞ」

「はいはーい」

「あ、待ってよ!絵里ちゃん、雪ちゃん!!」

 悠が声を掛けた瞬間、雪は後ろを向き悠にずいっと顔を近付けた。

「悠、あたし達の事呼び捨てで良いんだけど。」

「え、じ、じゃあ…雪と絵里…?」

 少し顔を赤らめながら雪と絵里の名前を呼ぶ悠を見て二人は顔を見合わせ………

「「あははは!!!」」
「え、ちょっと何で笑うの~!!?」


 ここから始まる新たなステージ。悠、絵里、雪の三人が創った小さなバスケ部はこれから大きく前進いていく。
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