Special Magic !


会計を終えたらしいリヒトさんは
優雅に歩きながらこちらに来た。

足、なっが!
長すぎでしょ!


シンプルな黒のズボンに白いワイシャツ、
たったそれだけの服なのに
輝いて見える。

イケメンパワー恐るべし。


「上に行こうか」

「あっ、はい」


ギシギシと歩く度に鳴る木の階段を上がり
目的の部屋にへと着いた。

『205』と『206』のプレートがかかった
それぞれの部屋。


私はリヒトさんに案内され、
『205』の部屋に一緒に入った。

「ここが君の部屋だよ。
話終えたら僕は206に戻るから」

「はーい」


簡素な白いベッドに木の丸テーブル、また木の椅子がひとつずつ置いてある。

部屋は狭く、窓はひとつだけで
かすかに白く曇って汚れていた。


「じゃあ、君が学校に通う条件だけど…」

「あっ。立ちながら話すのはあれなんで、私ベッドに座りますからリヒトさんは椅子に座ってください」

私はリュックをベッドの横に置いて
自分自身はベッドに腰かけた。

……少しかたいなぁ。

ふっわふわのベッドで寝たかった。
ちょっとわがままかな?
……そうだね、我慢しよ。


「ありがとう」

そしてまたもや優しく笑って椅子に座ったリヒトさん。

もうその笑顔には慣れましたよ!

妄想のおかずにしかなりませんからね!


「ふう。少し、焦りすぎたかな。
ごめんね、アインス」

申し訳ないように笑ったリヒトさん。

「別にいいですよ、じゃっ話の続きをどうぞー」

「うん、ありがとう」


リヒトさんお礼を口にしたあと、
笑顔から一変して真剣な顔をした。

それだけで背筋が伸びた。

ゴキッ
あっ、いきなり伸ばしたから背骨が鳴っちゃったよ。

「……条件で、君の力を貸してもらいたいというのはね」


そんな私の背骨も華麗にスルーしたリヒトさんは話を続けた。


「今、学校に不可解な事件が多発しているんだ。」

「…はい」

「その事件を解決する力になってほしい」

「……」

「難しい話かもしれないね。けれど、君の力が……君の、純粋な魔女の血が、必要なんだ」

「……」

「魔女の血というと意味がちがくなってしまうけれど、君の力がとにかく必要なんだ」

「……なんで、会って数時間なのに、私が、私の力が必要だって断言できるんですか」

「分かるんだよ。魔力の質と量が」

「……」

「魔女狩りを乗り越えた魔女の血は、とても濃いんだ」

「……」

「……ごめんね、君が望んでないことを言って」

「……」

「君を利用しようとは思っていない。
それに君にも学園生活を楽しんでもらいたい。
君の安全は、約束しよう。
君の力も、利用しない。

だから、どうか、この条件をのんでほしいんだ」


どこか不安だった。
巻き込まれそうな気がして。

それに私の血が必要…?
魔女の血が?

その言い回しにも不安があった。


正直に言うと、恐い。

今まで私はきっと、いや、私たちみたいなまだ見習いの魔法使い達は

魔女の森に守られてきたんだ。

だから、魔女の森を出ることを、許されていなかった。



………魔女の森を出ることを許されていなかった。
私は、出た。

逃げるために。


その結果が、これ?


「アインス。」

優しい声に顔を上げた。

あれ、私顔を下げていたんだ。
全然気付かなかった。

「アインス、怖がらせてごめんね」

「……」

「君が嫌ならいいんだよ。僕も無理を言ったね」

「……」


どうしよう。

リヒトさんはいい人で、
私を助けてくれた人で、

どうしよう。


でも、断ったら?
断ったら私はどうするの?

魔女の森に戻るの?
そんなこと出来ない。

自分の役目を放棄した私なんかを
誰も待っていない。

きっと今ごろ、妹に私の役目が
押し付けられているのだろう。


………ごめん。ごめんなさい。


そう、私には、妹がいる。

生意気で泣き虫で、可愛い私の妹が。


……どう、しよう。
どうしよう。


どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。


「…どう、しよう」

「……アインス?」

「わか、らない、です……」

「…うん」

「これから、どうしようか、分からないん、です」

「…うん」

「恐いんです…、罪悪感が、すごいんです…っ」

「……」

静かに立ち上がったリヒトさんは
こちらに向かってきた。

そして、

優しく、

腫れ物にでも触るように、

私を、

抱きしめた。



「…ごめんね。
絶対、守るから。」

「……」

「僕のもとへ、学校へ、来ないかい?」

「……っ」


抱き締めていた腕が緩んで
私の顔を覗き込んできたリヒトさん。

そんな彼の綺麗な瞳に映る私の顔は
複雑に歪んでいた。



「……っいき、ます…」


気付いたら、そう言っていた。



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