守られるより守りたい!
「神澤ー」
後ろから、声がした。
ちなみに給食の時間中は結構騒がしいから、この声一つはディスコの中の小鳥のさえずりみたいなものだ。
皆もう自由勝手だし、歩き回ってる奴もいるし。
それでもやけに耳に入ってくる、いや、刺さる声だ。
「おーい、神澤ー」
「な、何。坂城君」
振り返ると坂城君は、自分のお弁当を指さしてた。
今知ったが、うちの学校は給食をとる人とお弁当をもってくる人がいて、坂城君は後者のようだ。
あたしも後者だ。
「これ、食って」
そう言って坂城君が指さすのは、エビマヨ。
「…エビマヨ?なんで?」
「しらね。かーさんがたぶん、弟のと間違えたんだろ。俺、エビ嫌い。弟、コレ好き。」
「へー…」
「食わねーの?かーさんうるせぇから、残すといろいろ言うんだよ。だから食って。」
「え、でもあたしエビマヨあんま…」
「食えよ」
「あー、はいはい。いただきます」
好きでも嫌いでもない、そもそもあんま食べないエビマヨをわざわざ坂城君のお弁当からいただく。
「俺もなんかちょーだい」
「は!?」とエビマヨを飲みこんだのと同時に発した声を完全スルーして、坂城君は席を立ちあたしのお弁当をみる。
そして何一つ迷いなく、手にとって口にほうりこむ…。
「…ち、チーズポテトコロッケぇえ!!!」
「何コレうまっ」
あたしの嘆きも気にせず坂城君は続いてプチトマトも一つ食べていった。
坂城君の口の中で、あたしの大好きなプチトマトが弾ける。
「もっ、もうだめ!!」
そう言って、がばっとお弁当をガードすると、坂城君が満足そうに席に戻った。
襲撃を受けたお弁当をみると、不動の輝きを放っていたコロッケも消え、ルビーのごとく赤くきらめいていたトマトも拉致られた後だった。
エビマヨを受け取り、コロッケとトマトを与える…なんて貿易だ……。
…とほほ。
あたしにはひたすら、コロッケを失った悲しみしか残らない貿易だった。