守られるより守りたい!
「あいつ誰?」
腕を組んで睨みながらそういうお兄ちゃんは、なんだか浮気した彼氏を問い詰める彼女の様だった。
なんでこれが「浮気した彼女と問い詰める彼氏」じゃないのかは、自分でもわからないけど…。
殺気にあふれたその顔は、とりあえず恐かった。
思わず正座するほど。
「え、えっとね、この前きた転校生…」
「で、どういう関係?」
そのタイミングでお兄ちゃんの眼鏡がぎろっと光った。
「こら、柚稀《Yuzuki》。いくら亜稀が大事だからって、プライベートに突っ込む事ないでしょ。亜稀だってもう中学3年生なのよ?」
「美弥子、言っても無駄だよ。柚稀は亜稀が大好きでしかたないんだから」
「ったく、こんなだから今まで彼女いないのよ、柚稀は」
「母さんも父さんもうっせぇな!で、亜稀!あいつとは、どういう関係だ!」
「…お兄ちゃん、なんだか千隼先輩みたいになってんね」
千隼先輩とは、今高校二年生の千春のお兄さんだ。
中1の頃、あたしっちクラスに来た事あるけど、それは千春に会いに来る事が目的であり、その時シスコンっぷりを拝見させていただいた。
自分の兄はこうじゃなくてよかった、と思ったのになぁ。
「ばっ、あいつは異常だ。俺は平常だ。」
ちなみに言うと、あたしのお兄ちゃんは去年の高校最後の年に、千隼先輩と同じ部活に入っていて、なんか仲が良い。
「認めないって千隼先輩よりタチ悪いよ?」
「そんな事より、だ!!あの男は誰だ。彼氏か?」
「やだ、お父さんみたい柚稀。きっとあれね、健一にないお父さん成分は全部柚稀がもってっちゃったのよ」
「美弥子はひどいなぁ。俺これでも父親だよ?」
「彼氏なんかじゃないってば。勉強教えてただけだって」
呆れる母・美弥子《Miyako》とのんびりとコーヒーを楽しむ父・健一《Kenichi》をよそに、めんどくさくなってきたあたしは正座をやめて、テレビを見ながらそう言った。
「それはなんだ?友達か?」
ちょっと落ちつきを取り戻したお兄ちゃんは、安心した声でそう言った。
「そうだよ、友……」
そこまで言いかけて、ふと言葉がつまった。
あれ?
あたしにとっての坂城君って、なんだ?