僕は君の名前を呼ぶ


「海斗くん、今日も予備校?」


ようやく手を繋いで彩花ちゃんと歩くのにも慣れてきたある日の放課後。


彩花ちゃんが俺にそう尋ねてきた。


「うん。ごめんな、家まで送ってやれなくて。地元に帰らなきゃだから時間に余裕なくて」


こう答えなければいけないのは仕方ないことなのだけど、こうとしか言えなくて申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


たった数駅なのに、この距離が憎い。


「ううん。実はわたしも予備校に通うことになったの。確実に合格狙って確実に家を出ようと思って」


“確実に家を出る…”か。


春には彩花ちゃんはこの町を去ってしまう。

なかなか会えないほど遠くじゃ…ないよな?


「そっか。偉いな、成績良いのに頑張ってて…」


「海斗くんも頑張ろうね。受験終わったらいっぱい遊ぼ!」


「ああ、もちろん!」


これからまだまだ勉強は続くけど、この先の未来を思うと苦しいとは思えない。

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