僕は君の名前を呼ぶ
「おー、彩花ちゃん久しぶり! 海斗に適当に扱われてないぃ?」
「兄貴っっ! うるせーよ」
気まぐれに時々実家に帰ってくる、兄の瑛斗。
やっぱり肌が黒いのは、この人に合っていない。
「ゆっくりしていってくださいね、橘さん」
リビングで新聞片手に言う、父親。
彩花と親父が会うのは2回目。
息子の恋人を下の名前で呼ぶのに抵抗があるらしく、親父は彩花のことを“橘さん”と呼ぶ。
「お久しぶりです。お邪魔します」
「海斗。今日はもう遅いから、彩花ちゃんと泊まっていけば?」
「ちょ、母さん!」
「いいんですか!?」
俺の声を遮って、母さんに賛成したのは彩花だった。
できるだけ長く彩花とふたりでいたいって気持ちもあったけど、ダメだとは言えなかった。
彩花が目をキラキラさせて。
身を乗り出して母さんの方を見るんだ。