僕は君の名前を呼ぶ
《職場でご飯食べ損ねてお腹ペコペコだからご飯付き合ってよ》
久しぶりに里香先輩から連絡が来たのは、まだまだ暑さが続く9月の上旬だった。
偶然にもバイトがなく、今日は飯なしで済ませようとしていたから、ちょうどいいと思った。
30分後、彼女は車で俺の家に迎えに来てくれた。
「よーっす、海斗くん」
「こんばんは、里香先輩。あれ? 今日は口紅していないんですか」
助手席に乗り込みながら、彼女に俺はたずねた。
彼女が大学にいた頃、真っ赤なルージュは必ずつけていた。
トレードマークとも言える真っ赤なルージュが塗られていない唇を見て、若干の違和感を覚えた。
「こういうことよ」と言うと里香先輩は俺の唇に自分の唇を寄せたのだ。
一瞬だけ触れさせてそっと離した。
「海斗くんも嫌でしょ? 口紅で唇汚されたら」
嫌な気分は不思議としなかった。
結局俺も、男なんだなあ。