僕は君の名前を呼ぶ
「食べなきゃだよ、モヤシよ。気づいたら死んでるかもよ?」
「…ハイ」
彼女は素面で酔ったオッサンのようにガハハと笑った。
モヤシ…か。
女性にモヤシと言われるのは男としてあまり嬉しくはない。
「じゃあさ、定期的にわたしとご飯…ってのは、どう? 見張ってないとこのモヤシは食べないだろうから」
いつの間に激辛カレーを食べ終えた里香先輩が水を飲みながら言った。
「…すみません」
「で? 返事は?」
断る理由もないし、こう答えるしかないだろう。
「お願いします」
「ん、それでよし。あ、おごるのは今回だけね。どうせバイトでたくさん稼いでるんでしょ? 何につかってるんだか知らないけど」
里香先輩は今度はニヒヒと子どものように笑った。
先輩、俺は女性におごらせるような男じゃないです。
今までは、バイト代はだいたい彩花とのことにつかってきた。
N県への往復の交通費や、食事代、プレゼント。
使い道がなくなった今、確かに多少もて余している部分もある。
目の前にいる里香先輩も、隆太も夏樹も、いつも俺のことを気にかけてくれている。
俺ももう22歳だ。
衣食住の食なんて、基本。
下らないことで大切な人に心配をかけるのは、もうやめよう。