僕は君の名前を呼ぶ
「わたしじゃ、力になれない?」
「…?」
帰りの車で、運転席の里香先輩がいきなりこんなことを言った。
「彩花ちゃんを忘れたいなら、わたしを利用しなよ」
「えっ…」
挑発的な笑みで、里香先輩がこっちを向いた。
「冗談きついっすよ」
「冗談だと、思う?」
今度はかわって、真剣な眼差し。
この人は一体何を考えているんだ。
「…わたしじゃ。わたしじゃ、彩花ちゃんのかわりなれないの? 傷ついていく海斗くんを見るのがつらいの…」
「かわりって…」
今の俺には彩花だけで、かわりなんかいない。
忘れる気は、毛頭ない。
そのはずなのに、静かに涙を流す彼女を見て、胸を高鳴るのはなぜだろうか。
次の涙が彼女の目からほろりと落ちとき、俺の何かのスイッチが切れた。