僕は君の名前を呼ぶ



いつもヘラヘラして、どちらかといえば温厚な夏樹。


こんな必死になっている姿を見るのは初めてかもしれない。


「付き合ってもない女に逃げやがって! 見損なったぞ海斗。もっと真面目な男だと思ってた」


夏樹はそう言って俺の顔を軽くはたくと勝手に家にあがり、放置してあった座椅子にまるでそこが玉座であるかのようにふんぞり返った。




「彩花からどこまで聞いたんだ」


「可能な限り聞き出したつもり。悪く思うなよ、彩花のためだ」


“彩花のため”ね…。


俺たちの仲を取り持つとか、助け船を出すとか、そんな甘い考えは夏樹にはないのか。


他ではない、彩花のため。


一度惚れた女のため、ってところだろうか。


「責任感じてんだよ、俺。付き合ってた頃に裏切って傷つけたから。二度目の遠距離だろ? 同じ理由で彩花がまた傷つくのは、見たくねぇんだ」


「夏樹…」


座椅子に座ったまま腕を組み、少しふてくされたように言った。


本当に、この男は…。


「逃げたんだよ、俺。お前みたいな良い男に想われてる彩花を守る資格はない。一緒にいても、俺が傷つけるだけだ」


「バッカじゃねーの?」


「は?」


夏樹は立ち上がると俺の元にやって来て、再びすごい力で俺の胸ぐらを掴んだ。


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