僕は君の名前を呼ぶ


しぶしぶ承諾し、こっそり財布の中身を確認すると…──昼にしても夜にしても、焼き肉をおごる金はないみたいだ。


予定は立っていないがN県へ行くための新幹線のチケットだって買わなくてはいけない。


今はそっとしておいて、家を出たら行き先を変えてしまおう。




「40秒で支度しな! 昼飯行くぞ」


「3分待ってくださーい!」


──…5分後、夏樹が支度を終えるのを待って出発した。


行き先は決まってないが、とりあえず焼き肉屋ではないことは確かだ。


移動も面倒だし、近所の牛丼チェーン店でいいかな。


「お兄さんすみません。東京観光に来たのですが少し案内頼んでも、いいですか?」


家を出ると後ろから女性に呼び止められ、俺は振り向く前にどう断ろうかと思考をめぐらせた。


人見知りをする俺はあまりこういうことが得意ではないのだ。


しかもここは東京といってもはずれの方で、地方からの観光客が見るようなものはないと俺は認識している。


しかし隣の夏樹が「はいはーい」と調子のよい感じで対応してしまったので仕方なく俺も振り向いた。


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