僕は君の名前を呼ぶ
「よくあるすれ違いなんだけどね、ダメになったの」
「そう、だったんですね…」
彩花と俺にあまりに似ていて、言葉をうまく紡げなかった。
彼女の表情はいつも通りだったが、目の奥は悲しみに染まっていた。
恋も勉学も就職も、すべてうまくこなそうと思えば思うほどにぼろぼろと簡単に崩れていく。
いつでも自分を貫く彼女も、そして俺も、身を持って痛感してきたからきっと、前に進むのが怖いんだ。
「剣人がいない日々が当たり前になって…最後の方はさみしいのもつらいのも、慣れちゃってたの。おかしいね、剣人は恋人だったのに」
──『慣れほど恐ろしいものはないわよ』
いつかの俺への忠告も。
──『……と』
いつかの寝言も。
まわりまわって全部が彼女自身への戒めだったのかもしれない。
里香先輩は今でも剣人さんを…。
「似た境遇の海斗くんに意地悪しようと思っていたわけじゃないから、これだけは信じてね。
ギリギリのところで踏ん張ってる海斗くんを見て、ちょこっと背中をツンってしてみたくなっただけなの。
でも、結果は結局だもんね。本当にごめんなさい……」
言葉の最後は涙に飲まれて、小さいなっていた。
電話の向こうの様子がおかしかったのは、このせいだったのか。