僕は君の名前を呼ぶ
新幹線を降りて1時間半と少し。
ようやく彩花の下宿先の最寄り駅に着いた。
「…──フーッ」
真っ白い息を吐いて電車を降りると、目の前の光景に思わず俺は目を丸くしてしまった。
「──…彩花……」
向かいのホームには、大きな荷物を持った彩花が立っていた。
…音が、消えた。
心臓が、ときんと跳ねた。
彩花も俺に気づいたらしい。
次の瞬間、彩花は出口方面へ走って逃げた。
「待って、彩花っ!」
誰もいない静かな駅。俺は彩花をあわてて追いかける。
「お願いだ、待ってくれ、彩花!」
小さな背中に呼びかける。
改札をくぐり駅の外へ出て、雪に足をとられながらもしばらく走るとその背中は見失ってしまった。
「くそっ!」
雪が積もった真っ白な道を蹴る。
じん、と足から身体中に寒さが伝わった気がした。そんなの、あり得ないのに。
ただただ広がる、彩花のいない雪景色に、全身の力がへなへなと抜け、腰が落ちていった。