僕は君の名前を呼ぶ


「彩花…」


君に逃げられたら、もう終わりだ。


だってあれは立派な拒絶だろう?


「っつ…、」


ああ、俺の涙腺はこんなに弱くはなかったはずなのに。


ちょっとしたことで泣けてくるのは、君のせいだろう。


雪の冷たさなんて、感じない。


ただ、目の前の現実がぎりぎりと体を侵食し、胸が痛む。


嫌だ、嫌だ、嫌だ!


お願いだ、彩花。


俺のところに戻ってきて。


その笑顔を、俺に見せてくれ。




「彩花…」




届くはずがない名前を呼んだその時、俺の首元がふわりと温かくなった。


見れば、俺が彩花にあげたはずのマフラー。


長く使えるように選んだ、キャメルのマフラー。


前には白い雪。


そっと振り返ると、涙目の彩花が立っていた。




「彩花っっ!」


俺は慌てて立ち上がり、彩花を思い切り抱きしめた。


懐かしい、におい。


懐かしい、温かさ。


彩花、彩花、彩花…。


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