僕は君の名前を呼ぶ


彩花に同じ質問をされたら、答えにくいのは確かだ。


でもやっぱり、俺はこの決別を意味のある、愛のあるものとして捉えたいんだ。


…なんて、都合がよすぎる話だよな。


「海斗のこと忘れようと努力したけどだめだった。

今まで断ってた合コンにも参加したけど、難しいね、あれ。初対面の人と親しくしゃべるなんて、わたしにはハードル高すぎたや」


彩花は『あは、』と少し大袈裟に笑った。


わざと明るく振る舞っているのだろうけれど、ちら、と彩花を見ると、目が赤くなっているのが雪の中でもよくわかった。


「そっか…。ごめんな、彩花」


「謝らないでよ、バカ。海斗はわたしのことを思って別れるのを決めたんでしょ?

別れてる間は確かにつらかったけど、今はこうしてふたりで居れてるんだから」


「…そうだな」


君はひとりでたくさんの傷を抱えてきた。


もう、君は十分傷ついたんだ。


俺は、君を傷つけすぎた。


『傷つけるのも、傷つけられるのも海斗がいい』だなんて君は言うけれど、彩花のことはもう二度と傷つけたりしない。


ふたりで幸せになるんだから。




「実はね」


「ん?」


突然切り出した彩花。


このあと彼女の口から飛び出た言葉は、意外なものだった。


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