僕は君の名前を呼ぶ
──『春になったら一緒に暮らそう』
そう言えたらどれほどよかったか。
春になったら大学生から社会人へと、環境も肩書きも大きく変化する。
お互い教員になることに変わりないけれど、勤める学校はもちろん別だ。
俺は小学校で、彩花は中学校。
俺は将来、彩花と一緒になりたいと思っているし、彩花もきっとそう思ってくれているはずだ。
だけど俺は誰よりも彩花との未来を期待しているのに、同時に誰よりも彩花との未来に不安を抱えている。
彩花に問題があるわけじゃない。
すべては俺の方にあるんだ。
すべては弱い俺の方に。
そうでなかったら、彩花との別れは選んでいないはずだから。
未完成な自分なのに、このまま一緒になっていいのか。
俺の行く手をはばむ問題は、まだ残っている。
「…あ。でも俺のせいで行けなくなっちまったよな……。ごめん」
「ううん、いいの。むしろこれでよかったかも。海斗をお父さんに紹介できるし」
「そうだな。…って、え!? 俺!?」
「そーだよ」
ドヤ、とでも言いそうな顔で彩花は俺を見た。