僕は君の名前を呼ぶ


──『春になったら一緒に暮らそう』


そう言えたらどれほどよかったか。


春になったら大学生から社会人へと、環境も肩書きも大きく変化する。


お互い教員になることに変わりないけれど、勤める学校はもちろん別だ。


俺は小学校で、彩花は中学校。


俺は将来、彩花と一緒になりたいと思っているし、彩花もきっとそう思ってくれているはずだ。


だけど俺は誰よりも彩花との未来を期待しているのに、同時に誰よりも彩花との未来に不安を抱えている。


彩花に問題があるわけじゃない。


すべては俺の方にあるんだ。


すべては弱い俺の方に。


そうでなかったら、彩花との別れは選んでいないはずだから。


未完成な自分なのに、このまま一緒になっていいのか。


俺の行く手をはばむ問題は、まだ残っている。


「…あ。でも俺のせいで行けなくなっちまったよな……。ごめん」


「ううん、いいの。むしろこれでよかったかも。海斗をお父さんに紹介できるし」


「そうだな。…って、え!? 俺!?」


「そーだよ」


ドヤ、とでも言いそうな顔で彩花は俺を見た。


< 392 / 419 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop