僕は君の名前を呼ぶ
格好のいいことを思ってみたけれどうわべだけで。
彩花のことが好きだから、彩花のすべてを求めたくなってしまう。
「フ…」
チグハグでワガママな俺に自嘲の笑みをこぼすと、ヒールの地面を蹴る音がこっちに近づいていることに気づいた。
寒さで頬を赤く染めて。
真っ白な息を、吐いて。
「ただいま、海斗」
いとおしい彩花が、俺のところへ戻ってきてくれた。
「…うん。おかえりなさい」
「やだな、何泣きそうな顔してるの? バカだなぁ。言ったじゃない、海斗から離れないって」
「明らかに泣いた顔してるヤツに言われたくねぇし」
アイラインが少しよれている。
それに目だって赤い。
お父さんと話して、そこで泣いたのだろう。
「橘のお父さんのこと、話したの。そしたらね、『こっちに来て俺と住まないか』って言ってくれたんだ」
そう言って彩花は柔らかく微笑んだ。
こんな展開になるだろうとは思っていたけど、直接彩花の口から言われるとつらい。
反応できずにいると、彩花は続けた。
「『無理にでも、離婚したときに俺が引き取れば良かった。後悔してる』って。でもね…」
「でも……?」
「確かにわたしはお父さんっ子だし、それ以前にお姉ちゃん含めて神崎(かんざき)の家族が大好きなんだ。
でもね、もっと大好きで大切なモノを見つけちゃったから」
思わず息を飲む。