僕は君の名前を呼ぶ


──そして俺は再び、彩花の実の父親と対峙している。


「いやぁ、彩花の恋人と会う日が来るなんてな」と彼──神崎さんは笑って言った。


ほんとう、口元が彩花とそっくりだ。


口の端がきゅっと上がった薄い彩花の唇は、お父さん譲りだったんだな。




『お父さんが待ってるから早く戻ろう』


そう彩花に促され、ふたりで再び天文台に戻ると一般には開放されていない小さな社食に通された。


お昼時をとうに過ぎたそこに、人はまばらで。


彩花の指示で窓側の明るい座席へ向かうと、目を細めて柔らかく笑った神崎さんが。


そうして今に至る。




「わざわざ来てくれてありがとう、青木くん」


「いえ、わざわざだなんてそんな…」


「ふふっ、何固くなってんの?」


緊張のあまり縮こまっていると、隣に座る彩花に肩を軽く叩かれてしまった。


固くもなるさ、そりゃ。固くならない方がおかしいよ。


目の前に、君の大好きなお父さんがいるのだから。


「聞いたよ。青木くんが彩花を助けてくれたんだってな。ありがとう」


どうやら彩花は橘のお父さんのことを神崎さんに話したみたいだ。

「…自分はただ、彼女の笑顔を取り戻したかっただけですよ。お礼を言われるような、立派なことはしてません」


高校の入学式。


あの日桜の木の下で見た彩花の笑顔が忘れられなくて。


2年後、笑わなくなった彩花に再会し、心に抱える傷を知って、とっさに『助けたい』と思った。


これは俺のエゴだ。


『助けたい』? そんなの、違う。


『俺の手で笑わせてやりたい』。そうだろ?


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