僕は君の名前を呼ぶ
「彩花は小さい時からお父さんっ子でな。『お父さんとけっこんする!』なんて言って、俺にいつもくっついてきたんだ。
中学にあがっても思春期特有の父親を無視する、なんてこともなかった」
“お父さんとけっこん”……。
俺が知らなかった彩花の過去が明らかになってゆく。
今度時間を作って、ふたりで昔のことを話してみるのもいいかもしれないな。
頬が緩みそうになるのを抑えてちらりと彩花に視線を送ると、照れくさそうに肩をすくめた。
「本当はこっちが引き取ってやりたかったんだが、これから思春期を迎えるとなると母親と一緒にいた方がいいと判断したんだ。
お姉ちゃん──華絵(はなえ)は当時もう大きかったし、正しい選択だと思っていたが…」
神崎さんは口をつまらせた。
でも、つまり…
「…神崎さんの方で彼女を引き取ってやればよかった、ということですよね。橘のお父さんから守るために」
「──…ああ。でもそのことを彩花に言ったら、『お父さんの選択は間違ってない』って言ったんだ。
つらいことも多かったのに、ひねくれずにいい子に育って…。彩花の成長を見守ってやりたかった」
神崎さんは悔しそうに唇を噛んだ。
離婚という親の身勝手な行動に、子どもを巻き込んでしまったこと。
きっと、本当に後悔しているのだろう。
でも彩花が傷ついたという過去はもう、変えることはできないない。