僕は君の名前を呼ぶ
彩花を離すことなかったしこりが一つ、やっと昇華された気がした。
両親の離婚とそして、母親の再婚。
家族を大切にする彩花がとらわれ続けていたうちの、一つ。
彩花の心の闇となり続けていたうちの、一つ。
残りはあと一つ、か……。
「じゃあ、青木くん。彩花を、よろしく頼むよ」
帰り際、神崎さんが俺に言った。
頼まれなくたって、当たり前だ。
彩花を俺が幸せにしないで誰がする?
俺は、彩花と一緒に進むべき道を進むだけだ。
「もちろんです」
心にあった迷いは、不思議と小さくなっていたように思えた。
「──……あ。」
小さくなってゆく神崎さんの背中を見て、彼に言うべき言葉を思い出す。
…そうだ。これだけは伝えなきゃ。
「彩花、少しここで待ってて」
「え? あ、ちょ、ちょっと、海斗くん!?」
彩花の制止を無視して、神崎さんを追いかけた。
「あのっ…!」
「青木くん!? 何かあったのかい?」
「神崎さん。」
「なんだい?」
「────……」
息を切らしながら支え支えだけどなんとか気持ちを言葉にした。
すると神崎さんは何も言わずに優しく微笑んでくれた。
彩花とよく似た笑顔で──…。