僕は君の名前を呼ぶ
「あれ、」
ふたりでマイペースに気の向くままに歩いていたら、和彦さん由美子さんたちとはぐれてしまったようだ。
彩花と俺と、満開の桜。
さっきのにぎわいが、遠くで聞こえる。
ここに流れるのは、ふたりだけの幸せの色。
「…はぐれた?」
「ん。そうみたい」
「また海斗がぼんやりしてるから…。これだからぼさっと君は」
やれやれ、とでも言いたげな彩花に俺もすかさず反撃に出る。
「それを言うなら彩花もだろ? の・ん・び・り・ちゃん」
「あー! またそれ言ったぁ! のんびりじゃないもん。普通だもん」
眉間にシワを寄せ目を細め、俺を威嚇するように『ああん?』と見てくる彩花。
どこぞのヤンキーだよ。
怖くないから、それ。むしろかわいいから。
「のんびりしてると、中学生にバカにされるぞ。橘センセ」
「意地悪な教師って嫌われるんだよ? 子どもづたいで親に性悪教師がいるって情報広がるかもね、青木センセー」
あ、それは嫌だな。ぺーぺーの首なんて、PTA会長の小指でチョンだ。
小学校に勤めるならモンスターペアレントもいるし。あれ、中学校にもいるっけ。まあ、いいや。
そんなことを思っていると、プンプンモードに入ったらしい彩花はふい、とそっぽを向いてしまった。