僕は君の名前を呼ぶ
僕は君の名前を呼ぶ
a few years later...
温かな春の日。今年も桜が綺麗に咲いてくれた。
そして俺は思い出すあの日のことを。
「わたしね、幸せだなって思うよ」
俺たちの数歩先をパタパタと走る娘のさくらを柔らかい視線で見つめる彩花が言った。
「ん? どうしたいきなり」
「さくらがいるでしょ? 海斗がいるでしょ? 温かい家庭があるでしょ? そういうこと!」
…俺は2番目か。
まあ、それは仕方ないか。
彩花も俺も、娘のさくらを溺愛しているから。
「ママー! パパー!」
さくらが振り向いて俺たちを呼ぶ。
口角を上げてにっこりと笑うさくらを見て、なんだか泣きそうになった。
「俺も、幸せ」
100年、200年先も、なんてワガママなことは言わない。
これから終わりを迎えるその日までの数十年は、どうか僕の隣で笑っていて。
その間、僕は君を愛し続けよう。
“君の幸せは僕の幸せ”で、“僕の幸せは君の幸せ”なんだから。
でも、もしも…──。
君が笑顔を忘れたのなら、僕が笑顔の理由になる。
笑顔の理由を忘れたのなら僕は何度だって君の名前を呼ぶ。
僕のこの手で、君の隣で、君のその笑顔を守るから。
だから、ほら。笑ってみせて。
「…彩花!」
─END─