僕は君の名前を呼ぶ
「俺の勘違いだとは思うけど、橘さん、わざと元気なフリしてる気がして…。無理してるんじゃないかって思ったんだけど、ごめんな、失礼なこと聞いちまって」
「ううん、いいの…。気にしないで」
フッと、悲しそうに笑うと橘さんは作業に戻って行ってしまった。
あの反応…。
ちょっと引っ掛かるんだよなあ。
まさに、『関わらないで欲しい』とでも言うような反応。
ひどくおびえて、何もかもを拒絶しているような反応で。
あのときの笑顔とはかけ離れた、笑顔と呼べるかもわからない微妙な表情で。
“空元気”という言葉がぴったりだと思った。
本当に俺の勘違いだったのか…?
でも、俺はただの“クラスメイト”なんだ。
彼女にとって俺は、たまたま同じクラスになった、同じ委員会の男子ってだけ。
深く詮索するのはやめておこう。
俺だって詮索されるのは嫌いだ。
口を割れない秘密のひとつやふたつ、誰もが持っているものだ。