僕は君の名前を呼ぶ
そのまま会話することなく俺たちは仕事を終え、帰ることにした。
「…橘さん?」
いつの間に、毎週金曜日の委員会のあとは一緒に帰るのが恒例になっていた俺たち。
いつものように帰ろうとしたそのとき、橘さんは俺のワイシャツを掴んで後ろに引っ張った。
何かを訴えるように。
「どうか、した?」
「……た…………い」
「…ん?」
「帰り…たくない」
好きな女の子から“帰りたくない”なんて言われたら、きっと舞い上がるところだろう。
でも、今の彼女はそういうことを言いたいんじゃないはずだ。
闇から必死に手を伸ばしてそこから逃げるために、何かを訴えているんだ。