僕は君の名前を呼ぶ
その後も頭に浮かぶのは彼女のことばかりで。
新しい生活への不安はいつの間に消え、入学式も、呼名も、長い校長先生の話も、そんなのどうでもよくなった。
俺は彼女のことを何も知らない。
ここの学校の生徒だということ以外、学年も部活もわからない。
でも、あの髪の色と白い肌、赤い唇、そして笑顔だけはこの目に焼きついている。
押し入れに眠っているフィルムタイプの古いカメラの存在を思い出した。
人生最大のシャッターチャンスを逃してしまったように思えて悲しくなった。
けれど、あの姿ははっきりと脳裏に残っていて。
俺に絵の才能があったら忠実に再現できる自信があるくらいだった。
接点なんていらない。
もう一度だけ、彼女の笑顔を見たいんだ。