僕は君の名前を呼ぶ
そんなことを話しているうちに橘の家に着いてしまった。
「じゃあ、これ傘ね?」
「サンキュ、来週返すね」
「うん。じゃあ、また」
俺の手にはさっき彼女が宣言した通りの男ものの黒い傘。
きっと父親の傘だよな…?
父親のことなんか思い出したくもないよな。
俺がもっとしっかりしていれば…。
そんなことを考えてながら、俺の心臓はずっとドキドキしている。
自分ではどうにもならないことだけど、不謹慎にも程がある。
俺ばかりが彼女から元気や幸せをもらっていて、
俺は彼女に何もしてやれていない。
俺は一体──。