[完]Dear…~愛のうた~
その衝撃で私は思わず身を震わせる。

ゆかりんは頬を押さえてキッと社長を睨む。

「パパパパってなんなのよ……
もういいわ。あなたはもう私の娘じゃない。
そんなにパパがいいならあなたも死になさい」

そう言って社長は部屋を出てった。

「……っ」

ゆかりんはそのまま崩れるように座り込む。

「友香理……」

ゆかりんを支えるように秀も寄り添う。

「ごめん、ごめんなさい……ごめんね、秀」
「大丈夫だって……」
「また、あいつは秀を傷つける……」
「あいつなんて言うな。
友香理を生んでくれたたった一人の人だぞ?」
「でも秀を「俺は社長に感謝してるんだ。
ここにいられることも、友香理がここにいることも」
「……へ?」
「だから俺は社長を憎いなんて思ったことねーから」

“どういうこと?”

二人にそう尋ねようとすると
いきなり誰かが私の腕を引っ張った。

「……え?ちょ……」

そのまま私は部屋から出される。

「俺らがいたらダメだろ?
二人にしてやんないと……」

彼はそう言って寂しそうに私に笑いかけた。

どうやら私を引っ張ったのは隆弘だったらしい。

__________

ーコツコツ……

歩幅の違う二つの足音が耳に響く。

暗い夜の雰囲気を明るく照らしつける
三日月のおかげで足元がよく見える。

そしてもっと明るい街灯の光で
私達二人の影がくっきりと刻み込まれている。

「……」
「……」

お互い無言。

ただ、自然と気まずい空気はなくて
ましてや、それが気持ちいいくらいに感じた。

でもなぜだろう、私はこの曲を歌いたくなる。

「遠く見つめる君は~♪」
「……え?」
「赤いワインと共に霞む~」

この曲はPEACEの名を世に渡らせた曲。

「どうしてだろうか~♪
そんな君を瞳が離さない~」
「……二人歩いたこの道も~♪」
「……え?」

今度は私が驚いて隆弘を見る。

この曲……知ってるの……?

「いつかは思い出になるのでしょうか~」

隆弘は私をチラリと見てそっと頭を撫でる。

初めて聞いた隆弘の歌声は、
想像以上に優しくて、癒やされて……

こんな素晴らしい歌声だから
隆弘はChargeを引っ張れるんだなって

「忘れかけていた君の笑顔を思い出してた~
これで最後なんて思いたくもないのに~」

ねぇ、なんで?

隆弘の声を聞いたら現実が怖くなっちゃった。

隆弘の声より温かくて綺麗な歌声に
私は惚れちゃったみたい……

「さよならなんて悲しい言葉……
言わないでよ……ねぇ~♪」

それから私達は目をしっかりと合わせる。

きっとこれで一緒に歌うのは最後だから……

その幸せを、今二人で感じたい……




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