[完]Dear…~愛のうた~
「隆……」

名前を呼ぶと麗は背中に回す力を強める。

けれど、俺はただその場に立ち尽くしていた。

窓ガラス越しに見える実彩に目を向けながら……

________

麗は俺の幼なじみであり、元カノでもある。

麗はバレー部でエースだった。

ショートカットのボブで標準な身長に
程良くついたバレーで鍛えあげた筋肉。

童顔で明るく笑う彼女は人気者だった。

俺はそんな中陸上をやっていて、
みんなからはお似合いなカップルだと言われていた。

けれど、そんな幸せも崩れるのは早かった。

俺は麗の大事な、大事な足を壊してしまった……

そんなことを思い返すと、
やはり痛々しい左足の義足しか
目に入らなかった。

________

俺達はあの日、夜遅くまで繁華街にいた。

それも、悪い友達と関わった帰り……
事故は起こってしまった。

いきなり大量のバイクが俺達に襲いかかって来て
逃げ場を失った。

俺は必死に逃げた。

もちろん、麗も連れて……

けれど、間に合わなかった……

麗の足がバイクに巻き込まれて、
左足が壊死状態になって、切断するしかなかった。

それから俺達は親の反対もあり、
すぐに別れて、麗の家もすぐ引っ越して
転校してしまった。

はっきり言って麗のことは好きだった。

小さい頃からずっと一緒にいて……

だから、俺はすぐに麗を忘れられなかった。

だから内心……いまでもドキドキしている……。

__________

過去のことを思い返していると……

「隆、元気だった?」

くるくるとした目は昔から変わらない。

「あぁ、麗は?」
「うん、隆のことしか考えてなかったよ?」

その言葉に俺の心に戸惑いが起きた。

麗は、まだ、俺のことを思ってる……?

そして、麗の顔がどんどん近づいて来た時、

「何、してるの……?」

忘れかけていた、実彩の苦しみ悲しい声が
俺の頭を震わさせた。
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