[完]Dear…~愛のうた~
麗からバッと離れて実彩を見ると
実彩は弱々しくタオルケットを巻いて
うっすらと涙を浮かべていた。

「実彩……」

名前を呼ぶと実彩の体は一層震えた。

「実彩って、あのMISA!?」

麗は口に手を当てて驚いている。

実彩は、ただ俺だけを見て
ジッとその場から動かない。

「隆弘の……バカ!!」

実彩はそう言い捨ててタオルケットを
俺に叩きつけて海に向かって走り出した。

「実彩!!」

夜のことを思い出して必死に実彩を追いかける。

遠くから麗の声が聞こえる。

けれど、今大事なのは、実彩だ……

実彩は止まらないで
そのまま緩やかな崖を下って行く。

すると、

「きゃ……」

実彩はそのまま勢い良くその場で転げ落ちた。

「実彩!!」

俺は急いで駆け寄る。

「痛っ……」

実彩の細いきれいな足からは
真っ赤な血が流れていた。

「実彩今手当てするから動くな「触らないで!!」

実彩を抱えようとすると
腕を凄い勢い良いで払いよけられた。

実彩の目は充血し、涙が溜まっていて
悔しそうに唇を噛んでいる。

「もう隆弘なんて知らない!!大嫌い!!
私のこと、遊んでたの!?私は本気だったのに!!
あの子誰?私より大事な人!?
なんで、私の前に現れたの!?
意味わかんないよ!!
もう、誰も信じられない!!」

実彩は必死に痛々しい足を引きずって
立ち上がろうとしている。

「実彩」
「来ないで!!」

近づこうとすると実彩は一歩下がる。

「隆弘なんて、もう信じられない!!
私の過去聞いて、嘲笑ってたんでしょ!?
私なんてほっといてあの子の所に行ってよ!!」

そんなこと、ない……

俺が好きなのは……実彩だけ。

俺は実彩の細い体を捕まえる。

「いや!!離して!!あの子に触って手で私を「帰ろ?」

暴れている実彩にかけた言葉はそれ。

「……え?」
「ここで暴れたって何もならない。
とりあえず車乗って?
傷、手当てしないと残るから」

困惑した様子の実彩を抱えて車に向かう。

「隆……?」
「悪い麗。今日は用事があるんだ。
また今度、会えたらゆっくり話そう」

麗にそう伝えると実彩が苦しそうに顔を伏せる。

麗はそんな俺達を見て唖然としている。

「え、あ、うん……頑張って……」

実彩を車に乗せてそのままエンジンをかける。

「俺は、実彩しか見てないよ?」

うつむいている実彩にそう告げてから車を走らせると

「……っ……」

隣からは啜り声が微かに聞こえた。
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