[完]Dear…~愛のうた~
「今は違う。実彩が何よりも大事なんだ。
麗より何倍も実彩のことが大事で好きだ。
麗のことが好きだった時よりも、
今、俺はそれくらい実彩のことが好きだ」

すると、実彩の目からは綺麗な雫が
ポタリと落ちてくる。

「だから、実彩と別れたいなんて全く思ってない。
麗とよりを戻そうともしてない。
実彩のそばにいたい」

実彩の手をそっと握ると温かい体温が
俺の体に痛い程伝わってくる。

そして、実彩の涙をそっと拭おうとした時

「ごめん……」

実彩のその一言で俺の全ての動きが止まった。

「私、隆弘のこと信じれない」
「……え?」

実彩の顔はうつむいていてよく見えない。

「隆弘のことは信じたい。
いや、きっと隆弘が言ったこと全部信じてる。
けれど……」

実彩は顔を上げて俺を弱々しく見つめる。

「麗ちゃんは隆弘のことがまだ好きでしょ?
それに、あんな光景見たら……
信じようと思っても信じられないよ……」

そしてそのまま実彩は顔を隠す。

あんな光景……

きっとそれは、麗が抱きついてきた
あの時のことであろう……

「だから、隆弘。お願い……」

実彩はそのまま声を絞り出す。

「私と……距離を置いて……」

聞きたくないフレーズだったけれど、
何となく予想はしていた。

「一人で考えたいの……
もっと、時間をちょうだい……?」

きっと実彩は素直になれるか不安なんだ。

今、気持ちを伝えたいんだろうけど、
上手く言葉に出来なくて、
もしかしたら俺に酷いこと
言ってしまうからっていう
実彩なりの気遣いがあるのかもしれない。

実彩の全てを理解しているから、
実彩の考えていることはわかる。

だから、実彩が望むようにしよう。

「わかった、そうだな」

落ち込むな、勘違いするな……

俺達の関係がここで終わる訳ではない。

_______

「じゃね」
「あぁ、気をつけて」

実彩を送ってそのまま来た道を帰ろうとすると、

「隆弘!!」

その声で振り返る。

「私、まだ隆弘のこと好き……」

実彩はそういうと足早に建物の中に入って行った。

「好き、か……」

この言葉で幸せが終わるなんて、
まだ俺達には考えれなかった。
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