[完]Dear…~愛のうた~
実彩は頭から血を流していて、
綺麗な細い腕はさっき倒れてきた本棚に
痛々しい程はっきり下敷きになっていた。

「実彩!!」

とりあえず意識を確かめる為に実彩を揺さぶる。

すると

「……ん」

実彩がゆっくりと綺麗な瞳を見せる。

どうやら意識はあるみたいだ……

「今助けるから、ジッとしてろよ!!」

俺は重たい本棚を持ち上げ実彩の腕を解放させる。

「何で……」
「いいから黙ってろ」

実彩の腕にはくっきりと跡が残っていた。

もしかしたら、骨が折れているかもしれない。

「とりあえず、ここから避難しよう」

だが、なかなか実彩は動かない。

いや、動きたくないのかもしれない。

俺とは、距離を置きたいんだから……

「立て、ない……」

でもどうやらちがってようだ。

動けない様子の実彩を支えて非常階段へと急ぐ。

「隆弘、ケガ……」

実彩は俺の足にある傷を見て顔を歪める。

「大丈夫、これくらい大丈夫だから。
心配するな。早くここから出よう」

そう言って角を曲がろうとした時……

ードーンッ!!

耳を塞ぐような大きな音が後ろから聞こえた。

「何だ!?」

慌てて後ろを振り返ると
吹き抜けから見える下の階から
炎が燃え上がっていた。

もしかして……

「地震のせいで……4階のレストランで爆発、した?」

実彩が震える声でそう呟いた。

そうだ、間違いない。

さっきの地震も大きかったし、可能性はある。

そして何より……

「急いで逃げるぞ!!」

俺は実彩の手を取って猛スピードで逃げた。

ここは5階、4階はすぐ下だ。

急いで逃げないと、炎がすぐ着いてしまう。

実彩も抵抗することなく走ったが、
腕を痛そうに押さえている。

あともう少しで非常階段だというのに
俺達に与える被害はまだあった。
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