[完]Dear…~愛のうた~
「最悪……切断することも……
頭に入れて置いて下さい」

切断……その言葉に涙が出た。

泣いてる暇なんてないけど、
どうしても自分が斬られるのは嫌だった。

そして、切断は……私の人生を大きく変える。

もちろん、ダンスだって踊れないし、
もうテレビにも出れないのかもしれない。

不安がどんどんと私を襲う。

「こちらも全力を尽くします。
ですから、一緒に頑張りましょう!!」

お医者さんはそのまま病室を後にした。

「う……っ……グスッ……」

そしてそのまま私は涙を隠すように
ベッドの中に潜りこんで、目を閉じた。

_______

あれから数日……

私は一人病室から外を眺めていた。

そして、目に映るのはたくさんの報道陣……

どうやら私の腕のことが公表されたらしい。

私を取材に来たとしか考えられない。

「はぁ……」

私は深いため息をついてカレンダーに目を移す。

“8/5”

昨日は私達のレコーディング日だった。

もしかしたら、隆弘に会えるかも……

なんて期待して待っていたけれど、
私のただの妄想にしか過ぎなかったようだ。

そしてそのまま読みかけの恋愛小説を手にとる。

勝手に頭の中を幸せにするために買った本。

いわゆる、現実逃避をするために買った。

“俺と付き合え。お前に拒否権はねぇ”
“キスしてぇ……”

甘過ぎる言葉に顔をしかめていると……

“好きだったら何でも変えられるでしょ?”

その言葉に違和感と不満を覚えた。

そんなことない……

好きでも、つらいことだってあるし、
何でも変えられるならきっと……

「私達はこんなに引き離れないはず……」

隆弘の顔を思い浮かべながら
少しいろいろと考えていると……

ーコンコン

ドアをノックする音がした。

「はーい」

本を閉じて返事をすると……

「実彩、おはよ」

明るく、だけど少し悲しそうに笑う杏奈がいた。



< 140 / 207 >

この作品をシェア

pagetop