[完]Dear…~愛のうた~
______

あれから3日が過ぎた……

私は相変わらず部屋の中でボーっとしていた。

でも不意に隣の部屋が気になって、
壁に手を置いて、耳を傾けたりする。

報道陣はもういつの間にかいなくなっていて、
私達は普通の生活に戻った気分だ。

ーコンコン

入って来たのはあの二人。

あれから二人は毎日来てくれている。

「今日はいい天気やな。
暑くもなく、寒くもなく」

呑気な真司くんには思わず笑みがこぼれる。

「そうだ、ねぇ、そろそろ実彩誕生日じゃない!?」

杏奈の言葉にカレンダーを見てみる。

誕生日……

8/16は私の誕生日だ。

すっかり忘れていた。

「プレゼント何がいい?
私、何でも買ってくるよ?」

プレゼント……私にはある一つのことが
頭に浮かんでいた。

「隆弘……」
「……え?」
「隆弘に、会いたい……」

一度でいいから、私に顔を見せて欲しい。

今年の誕生日は隆弘に会いたい……

「それが、私が今、一番欲しい誕生日プレゼント」

それ以外、何も要らない……

二人は目を合わせて何か考え込んでいる。

「でも、実彩ちゃん、隆は「それでもいい。
私、隆弘に会いたいの……」

好きな人に会うのを願うことは……
いけないのですか……?

そんなことを話していると……

ー「ふざけんなよ!!お前に何がわかるんだよ!!」

隣から凄い怒鳴り声が聞こえた。

きっとあれは……彼の声……

「ったく、あいつ……
あんなに冷静にしてろって言ったやろ……」

真司くんは小走りで隣の部屋へと向かって行った。

「隣にね、光がいるの」
「……え?」
「あの二人、仲悪く見えるけど、
昔は凄い仲良かったんだって」

そうなんだ……いつも喧嘩ばっかりだから
すっかり犬猿の仲かと思っていた。

「似たもの同士なんだって。
だから、お互い同じことでぶつかり合うって。
でも、今日は話したいことがあるって言い出して。
いつ喧嘩するかわからなかったから
あまり会わせないようにはしてたらしいんだけど、
やっぱりって感じ」

杏奈は苦笑いして私に皮を剥いた林檎を差し出す。

その林檎を震える手で持ち上げてみるが、
やはり今にも落としてしまいそうだ。

「いいよ?無理しなくて」

杏奈の優しさに心が痛くなる。

私は馴れない左手で林檎を口の中へと入れた。

「杏奈」
「ん?」
「いつもありがとね」

杏奈はびっくりした顔で私を見る。

「何、急に」
「なんとなく」
「何それ、意味わかんない」

そうして二人で笑い合った。

私、杏奈のメンバーで親友で本当によかったよ……
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