[完]Dear…~愛のうた~
「……泣けよ」

でも、その温もりは私が求めてた温もりじゃない。

私の好きなグリーンティーの香りじゃない。

あの爽やかな香りじゃなくて、渋い大人の香り。

あぁ、こういう時に匂いフェチって役立つ。

恐らくこれは、コーヒーシュガーの香り。

どうしてだろう。

何だかその香りは私の涙を誘う。

「泣けよ、あいつのことなんて忘れるくらいに」

低くて若干洒落のある声が私の耳に響く。

あの優しくて透き通った声じゃないけど、
私はどこか安心している。

「光……」

私は彼の名前を呼ぶと
そのまま子どものように泣きじゃくった。

何で、こんなにつらいんだろ?

ただ、光が抱きしめてくれるのに、
私の頭の中は隆弘の笑顔しか出てこない。

「……隆弘」

何で今更隆弘に罪悪感なんて感じているの?

隆弘なんて、私のこと……

そんなことを考えていると……

「……!!」

私は思わずそのまま光から離れた。

「何、したの……」

光は罰の悪そうな顔をして下を向いている。

「何で、こんなことするの……?」

恐らく私の声は震えている。

そして、私はそのまま唇をそっと撫でた。

「……ら……」
「え?」
「好きだから、キスした」

はっきりそう言った光に
私は益々目を逸らしたくなる。

「それ、先に言ってよ……」

私はそのまま唇を服でこすると
そのまま部屋から飛び出した。

何でかわかんない。

また隆弘の顔しか出てこない。

隆弘への罪悪感しか出てこない。

どうしよう、私の居場所はない……

私は思わずあの場所へ向かった。

ーガラッ

扉を開くとそこには麗ちゃんの姿はなかった。

「何?」

一瞬驚いた彼だけど、すぐに冷たい視線を向けた。

そんな彼が私は許せなくて
気がつくと私は彼の前に立っていた。

「だから何って……」

私はそのまま彼の言葉を塞いだ。
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