[完]Dear…~愛のうた~
「おん、確か休みは明後日からや」
「じゃあ、早く支度しないと間に合わないかもよー?」
「そんなことないわ」

それはPEACEとChargeのリフレッシュ旅。

企画は3ヵ月前から
私達を励ます為に作られたんだけど……

今の私にとったらいい迷惑。

隆弘はもちろん、光ともあれから気まずいままだ。

そんな中、旅行なんて行きたくない。

けど……

「俺、あーちゃんが海で泳いどったら
人魚に見えてまうわ」
「嘘ー♪それおとぎ話の話みたい!!」

ここのラブラブカップルがいるため
この企画が中止になるはずない。

まぁ、仲がいいのはいいこと何だけど……

もう少し周りを見て頂きたい。

“もう行き先は決まってるの?”

すると二人は目を丸くして私をみる。

「えぇ!?何言ってんの!?
もう普通に旅行会社に頼んでるよ!?」

……へ?

“そんなこと言ってたっけ?”
「言ってた言ってた。
来週の水曜日行くって言ってたやん」

そんなこと聞いた覚えがないんですけど……

しかも、来週の水曜日ってあと5日じゃん!!

一週間無いし……

“行き先は?”

「ハワイって言ってなかったっけ?」

どうしてこんなに私と次から次へと抜けていくの!?

ショック過ぎる……

リフレッシュも何も出来ないじゃん……

私は深いため息を心で漏らしながらも
そのまま二人の会話に耳を傾けていた。

_______

「おめでとうございます」

私はペコッとお辞儀をして微笑む。

「どうかこれからもお身体に
気をつけて過ごし下さいませ」

“ありがとうございます”

口パクでそういうと看護師さんが私に近づいて来た。

「これからも頑張って下さい。
たとえ、今声が出なくても
MISAさんの歌はちゃんと届いてますから。
自分を信じて闘って下さい」

その言葉に涙が出るかと思った。

こんなこと言ってくれるの、初めてだったから……

「あ、実は私PEACEのファンでして……
何度もMISAさんの歌声に勇気を貰ったので。
あ、握手して貰ってもいいです?」

私は大きく頷いて看護師さんの手を握った。

温かい……

素直にそう思った。

これが命を繋いでいる手かと、
私は感動してただその手を強く握っていた。

「ありがとうございます。
これで、私も元気になりました」

その笑顔で私は久しぶりにこう感じた。

芸能人になって、よかった……

「じゃあ、私達はこれで……
今まで本当にありがとうございました」

隣で私の荷物を持ってくれている杏奈が
私の代わりにお礼を言うと、
私達はゆっくりと病院を後にした。

「手、繋ぐ?」

杏奈がさっきの様子を見てか
私にそっと手を差し伸べてきた。

私は大きく頷くと、
杏奈の一回り小さな手をしっかりと握りしめた。

やっぱり、人の手は温かかった……

そして、私はなぜかあのホットカフェオレを
昨日のことのように思い出していた。



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