[完]Dear…～愛のうた～

_____

「おーい!!こっちこっち」

直人が遠くで手を振って呼んでいる。

「ごめーん!!間に合った？」
「ギリギリやで」
「嘘ー!?」
「嘘やって、あーちゃん荷物貸して？」

真司くんは杏奈から軽々と荷物を取って
そのまま杏奈の横に並ぶ。

「ふー、イケメーン♪」
「うるさいわ」

光のそんなおちゃらけた行動にも
関西人らしい突っ込みが入る。

私はそんな二人を見て密かに微笑んでいた。

「実彩ちゃん持とうか？」

直人がそう言って私のバッグを持とうとするが
私は首を横に振った。

「いいって」

それでも私は首を横に振る。

「でも、腕が……」

そう言われて私は携帯を取り出して
メモのページを開く。

“そういうことで私は甘えたくないの。
これもリハビリだと思ってるから”

すると直人は少し納得しない様子だったが、

「そっか、でもつらくなったら言って？
いつでも手貸すから。無理は禁物だし」

私は“ありがとう”と口パクしてから
そのまま携帯の電源を切った。

「乗ろうぜ？」

すると今までの空気を壊すような
低くトゲのある声で黙っていた彼が口を開ける。

「なんや、不機嫌やな」
「そうだぞ、これから楽しい旅行だっていうのに」
「俺はたしか行かないって言った。
なのに、無理やり連れて来られて
飛行機に乗る前に何だこの雰囲気。
公共の場っていうのを考えろ。
このままスクープされたらどうすんだよ」

明らかに様子がおかしい彼に私は戸惑いを隠せない。

「おい、隆それどういう意味だ」

血の気が多い光が隆弘に言葉を挟む。

「おい、やめろって」
「そうだよ、ただ隆は眠たいだけでしょ？
ほら、寝起きが悪いから」

そんなフォローも利かないくらい
二人は睨み合っていた。

「何だよ、やるのか？」
「あぁ、お前につべこべ言われたくねぇからな」
「テメェ……!!」

そう言って隆弘が手を上げた時
私の体は勝手に動いていた。

私は思わず二人の間に入って
光の前で手を大きく広げていた。

そして私は必死に首を振る。

お願い、こんなことやめて……

また、隆弘が苦しむだけだよ……

「どけろよ、お前に関係ないだろ!?」

隆弘は力ずくで私をどけようとするが
私は必死に首を振って隆弘を止める。

「おい、いい加減にしろ!!殴られてぇのか!?」

ねぇ、どうして……？

どうしてあなたは元に戻ってしまったの？

いや、どうして変わってしまったの？

何で私のこと、実彩って呼んでくれないの……？

Chargeのタカになっても、
私のこと実彩って呼んでくれないの？

前はずっと、そう呼んでくれてたのに……