[完]Dear…~愛のうた~
ふわっと香る上品な香り。

柔らかい感触、細い腕……

その全てが久しぶり過ぎて
理解するのにしばらく時間がかかった。

少ししてわかったことは……
実彩が俺に抱きついてるってこと……

「よかった……よかった……よかった。
本当によかったよ……」
「……実彩?」

実彩はとにかく何かから解放されたように
俺にキツくしがみついていた。

「隆弘……ごめん……
少しだけ……少しだけこのままでいさせて……」

近くで聞こえる実彩の声が俺の脳を刺激する。

そして実彩は……俺の胸に顔をうずめた。

その姿に目を奪われて……
心臓が鳴り止まなくて……

俺は思わず実彩の背中に手を回した。

実彩は俺を見計らって体を俺に傾ける。

これじゃ、前の俺と同じじゃないか……

複雑な心境にさまよいながらも
実彩の体が動くたび、髪が肌に当たって
くすぐったくなる。

でもそんな無防備な実彩がかわいくて
やっぱりそばに置きたい……

欲が湧き出てしまった……

________

「ごめん……」
「いや、別に……」

どれくらい時間が過ぎただろうか……

実彩は俺からすっと離れて目を逸らした。

さっき拒絶されたのにあんなことされると
俺は何をすればいいのかわからなくて……

「……体調どう?」

ただ実彩と話したいがままに
そんなことしか聞けなかった。

「わかんない……何が起きたのか……」
「だよな……」

きっと記憶もないのに、俺は何を聞いてるんだろう

すると実彩が顔をあげてどこかをジッと見ていた。

その視線の先をたどると……
部屋に戻ってきたゆかりん。

いつの間にいなくなっていたんだろう。

そう思うくらい俺達に気遣って
外に行ったのだろうか……

ゆかりんはまだ遠慮がちに俺らを見ている。

実彩と話したいのかな……

「じゃ、俺はここで」

俺は立ち上がってゆっくりと歩いていたが、
ゆかりんの横でスッと止まった。

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