[完]Dear…~愛のうた~
ゆかりんは驚いた顔で俺を見た。

「これ、実彩に渡しといて?」

小声でそういって俺は自分の手に持っていた
カフェオレを取り出した。

「え?」
「多く買っちゃったし、実彩カフェオレ好きだから」

ゆかりんはコクッと頷いてからそれを受け取った。

「実彩、俺のせいで自販機これなかったんだし」

そう言い残して部屋を出ようとすると……

「もう、行っちゃうの?」

か弱くて寂しそうに呟く実彩の声に
足を止めて振り返り実彩を見る。

実彩は弱々しく足を抱えてソファーに座っている。

俺の目を見る目は
どこか悲しそうに潤んで揺らいでいた。

そんな顔すんなよ……

このまま抱きしめて安心させたい。

もう、実彩の元から離れたくない。

けれど、そんなことしたら止まらなくなるから……

さっき実彩に抱きつかれただけで
耐えるのに必死だったのに……

このまま実彩のそばにいたらどうなる?

きっと前と同じように……いや、前以上に
実彩に酷いことをして、泣かせて……
拒絶されるどころじゃない。

そんなことしたら俺は人間として失格だ。

だから、今は耐えて、
実彩から距離をとらないと……

「……あぁ、またな?
……実彩の許可が出たらの話だけど」

そう悲しみを隠すように笑って部屋を後にした。

_______

「帰るか……」

俺は部屋から出てきて
エレベーターの前まで歩いてきた。

もう9時半すぎだし、腹も減ったし……

そう思ってエレベーターが来るのを待っている時

「……っ……っ……」

どこからか泣き声らしい啜り声が聞こえた。

不思議に思ってその方向を見ると……

「っ……グスッ……っ……」

奥の廊下の暗闇で動く何かがいた。

まさか……

俺はそう思いそっちに足を進めて電気をつけた。

「きゃっ……」

微かに聞こえた悲鳴は何度も聞いたことある
高いけど、特徴のある声。

目に映る綺麗な金髪と小さい顔を覆う小さな手。

手からはみ出る唇は悔しそうに噛み締めていて、
彼女なりの強がりがあった。

やっぱり……

「杏ちゃん……」
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